
AIを動かすのは半導体、つなぐのは通信――デジタル社会を支える技術をやさしく解説
※本記事は2026年7月15日時点の情報をもとに作成しています。企業の量産計画や工場計画は変更される可能性があるため、「確定した実績」と「将来の目標」を分けて記載しています。
目次
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まず結論――半導体と通信は、AI時代の社会インフラ
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そもそも半導体とは何か
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なぜAIによって半導体需要が増えているのか
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AI半導体だけでは動かない――HBMと先端パッケージング
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半導体は一社では作れない――複雑なサプライチェーン
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通信は「情報を運ぶ道路」
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光電融合――電気だけで情報を運ぶ限界を超える
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6Gでは何が変わるのか
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日本の半導体産業は復活できるのか
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半導体が経済安全保障の問題になる理由
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電力と通信を一緒に考える「ワット・ビット連携」
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企業や個人の生活にどのような影響があるのか
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企業は何を確認すればよいのか
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まとめ――競争の主役はチップ単体からシステム全体へ
1.まず結論――半導体と通信は、AI時代の社会インフラ
半導体と通信は、一見すると別々の技術に見えます。
しかし、AI時代には切り離して考えられません。
AIを動かすには、次のものが必要だからです。
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計算する半導体
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データを一時的に保管するメモリ
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複数の半導体をつなぐ実装技術
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サーバー同士をつなぐ高速通信
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大量の機器を設置するデータセンター
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機器を動かし、冷却する電力
簡単に言えば、次のような関係です。
技術たとえるなら役割AI半導体頭脳大量の計算を行うメモリ作業机計算中のデータを置く先端パッケージングチームの配置複数の半導体を近くに置いて連携させる通信道路データを運ぶデータセンター工場AIサービスを大量に動かす電力・冷却燃料と空調システムを安定して動かす
これまでは「最も高性能なチップを作れるか」が大きな競争軸でした。
現在は、
半導体、メモリ、実装、通信、電力を一つのシステムとして設計できるか
が重要になっています。
経済産業省の「半導体・デジタル産業戦略」も、クラウド、エッジ、通信、電源、半導体を一体で捉える方向を示しています。経済産業省「半導体・デジタル産業戦略 改訂版」
2.そもそも半導体とは何か
半導体は、電気を通したり、通さなかったりする性質を利用した電子部品です。
スマートフォン、パソコン、自動車、家電、工場の機械など、ほぼすべての電子機器に使われています。
半導体の中には、「トランジスタ」と呼ばれる非常に小さなスイッチが大量に並んでいます。
このスイッチを高速でオン・オフすることで、計算やデータ処理を行います。
例えば、スマートフォンでは半導体が次のような仕事をしています。
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アプリを動かす
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写真を処理する
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通信を制御する
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データを保存する
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バッテリーを管理する
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顔や指紋を認証する
つまり、半導体は単なる部品ではありません。
電子機器の頭脳、記憶、感覚、通信、電源管理を担当する部品の総称
と考えると分かりやすいでしょう。
半導体には多くの種類がある
種類主な役割使用例ロジック半導体計算や判断CPU、GPU、AIアクセラレーターメモリ半導体データの一時・長期保存DRAM、NAND、HBMマイコン機械や製品を制御自動車、家電、工場設備パワー半導体電力を効率よく制御EV、鉄道、データセンターセンサー光、温度、動きなどを検知カメラ、自動運転、ロボット通信半導体電波や光通信を制御スマートフォン、基地局、ルーター
「最先端の2nm半導体」だけが重要なのではありません。
自動車や工場では、何年も安定して使えるマイコン、センサー、パワー半導体も欠かせません。
3.なぜAIによって半導体需要が増えているのか
生成AIは、質問に答えるまでに膨大な計算を行っています。
文章を一つ作る場合でも、大量の数値計算を繰り返し、次に続く言葉を予測します。
AIモデルを開発する「学習」では、特に大きな計算能力が必要です。完成したAIを利用する「推論」でも、利用者が増えれば大量の計算が発生します。
AIでは計算を同時に行う
通常のCPUは、複雑な仕事を順序よく処理するのが得意です。
一方、GPUやAIアクセラレーターは、比較的単純な計算を大量に並行して行うことが得意です。
学校に例えると、次のようになります。
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CPU:一人の優秀な先生が難しい問題を順番に解く
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GPU:多くの生徒が同じ種類の問題を一斉に解く
AIでは、後者のような並列計算が多いため、GPUなどの需要が増えています。
必要なのは計算用チップだけではない
AI向けの半導体需要が増えると、同時に次のものも必要になります。
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高速メモリ
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高性能な通信チップ
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半導体同士をつなぐ基板
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放熱材料
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冷却設備
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電源装置
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光通信部品
AIブームは、一種類の半導体だけを成長させるのではありません。データセンターを構成する幅広い産業に影響を与えています。
4.AI半導体だけでは動かない――HBMと先端パッケージング
AI半導体の性能が高くても、データを十分な速さで渡せなければ、計算能力を使い切れません。
ここで重要になるのが「HBM」と「先端パッケージング」です。
HBMとは何か
HBMは「High Bandwidth Memory」の略で、大量のデータを高速に受け渡すためのメモリです。
通常のメモリを、離れた倉庫に例えてみましょう。
必要なデータを取りに行くたびに、長い通路を往復しなければなりません。
HBMは、よく使うデータを計算装置のすぐ横にある高層倉庫に置くイメージです。
複数のメモリを縦に積み重ね、短い経路で大量のデータを送ります。
これにより、AI半導体がデータを待つ時間を減らせます。
先端パッケージングとは何か
以前は、一枚のチップに多くの機能を詰め込むことが重視されていました。
しかし、チップが大きく複雑になるほど、製造の難易度とコストが上がります。
そこで、役割ごとに分けた複数の小さなチップを、非常に近い場所に配置して接続する方法が広がっています。
この小さなチップを「チップレット」と呼びます。
たとえるなら、何でも一人で行う巨大な専門家を作るのではなく、
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計算担当
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メモリ担当
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通信担当
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入出力担当
を同じチームとして近くに配置する考え方です。
複数のチップを高速・低消費電力で接続するのが、先端パッケージングです。
そのため、競争の中心は、回路を細かくする「前工程」だけではありません。
組み立てや接続を担当する「後工程」の重要性も高まっています。
5.半導体は一社では作れない――複雑なサプライチェーン
半導体は、一社だけですべてを作ることが難しい製品です。
完成までには、世界中の企業が関わります。
半導体ができるまで
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どのような機能にするか決める
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回路を設計する
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設計を製造可能な形に変換する
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シリコンウエハー上に回路を形成する
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回路が正しく動くか検査する
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チップを切り分ける
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メモリなど他の部品と接続する
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製品として包装する
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最終検査を行う
この工程では、次の企業が必要です。
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半導体設計会社
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EDAと呼ばれる設計ソフト企業
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知的財産を提供する企業
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半導体工場
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製造装置企業
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材料企業
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パッケージング企業
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検査装置企業
日本は何が得意なのか
日本は最先端ロジック半導体の量産で出遅れました。
一方、次の分野では重要な企業を持っています。
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シリコンウエハー
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フォトレジストなどの材料
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半導体製造装置
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洗浄・検査装置
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精密部品
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パワー半導体
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センサー
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パッケージング材料
つまり、日本は完成品のシェアだけを見ると弱く見えても、世界の半導体製造に欠かせない装置や材料を供給しています。
ただし、一部の国や企業に依存している工程が止まると、半導体全体を生産できなくなります。
このため、半導体の政策では「どの国が最も高性能なチップを作るか」だけでなく、「供給網を止めないこと」が重要です。
6.通信は「情報を運ぶ道路」
半導体が計算を行っても、データを送受信できなければAIサービスは利用できません。
通信は、データを運ぶ道路のようなものです。
通信網には、次のような種類があります。
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光ファイバー
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携帯電話の基地局
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Wi-Fi
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海底ケーブル
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衛星通信
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データセンター間の専用回線
AI時代には通信量が増える
AIサービスでは、大量のデータがデータセンター内や、複数のデータセンター間を移動します。
例えば、一つのAIモデルを多くのサーバーで学習する場合、それぞれのサーバーが計算結果を頻繁に交換します。
道路に例えると、次のようになります。
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高性能なAI半導体:速いトラック
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HBM:荷物をすぐ積める倉庫
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通信ネットワーク:高速道路
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データセンター:巨大な物流拠点
トラックだけ速くしても、道路が渋滞していれば荷物は届きません。
そのため、AI時代には半導体と通信を同時に高速化する必要があります。
7.光電融合――電気だけで情報を運ぶ限界を超える
半導体の内部やサーバー間では、主に電気信号で情報を運んでいます。
しかし、通信量が増えるほど、電気配線では次の問題が大きくなります。
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消費電力が増える
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熱が発生する
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長い距離を高速に伝送しにくい
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配線が複雑になる
そこで注目されるのが「光電融合」です。
光電融合とは何か
光電融合は、電気が得意な計算処理と、光が得意な高速・長距離通信を組み合わせる技術です。
これまで光ファイバーは、主に建物や通信設備の間で使われてきました。
今後は、光をデータセンター内、サーバー間、さらには半導体の近くまで導入しようとしています。
IOWNとは何か
NTTが進める「IOWN」では、通信網の多くを光技術で構成する「オールフォトニクス・ネットワーク」が重要な要素になっています。
NTTは、光電融合によって大容量・低遅延・低消費電力の通信基盤を実現する構想を示しています。NTT「IOWNの機能と特徴」
また、NTTとNTTコミュニケーションズは、複数企業の装置を使った400Gbps・800Gbpsのデータセンター間光接続の実証を公表しています。NTT「IOWN APNの相互接続実証」
光電融合は、単にインターネットを速くする技術ではありません。
AIデータセンターの消費電力や発熱を抑えるための技術としても重要です。
8.6Gでは何が変わるのか
現在普及している5Gの次に検討されている通信規格が6Gです。
国際電気通信連合(ITU)では、6Gに相当する次世代移動通信システムを「IMT-2030」と呼んでいます。ITU「IMT-2030」
6Gで目指されているのは、単に通信速度を上げることだけではありません。
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非常に遅延の少ない通信
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多数のセンサーや機械の接続
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地上と衛星を組み合わせた通信
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通信と位置・物体検知の融合
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AIによるネットワーク制御
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AI処理と通信の一体化
などが検討されています。
AI-RANとは何か
RANは、スマートフォンなどの端末と通信網をつなぐ基地局側の仕組みです。
AI-RANでは、AIを使って電波の利用状況や通信量を予測し、基地局の動作を調整します。
例えば、イベント会場で突然通信量が増えた場合、AIが状況を予測し、必要な場所へ通信資源を割り当てます。
さらに、基地局に設置した計算装置を、通信だけでなくAI処理にも利用する構想があります。
ただし、6Gは規格や技術要件を定めている途中です。実用化時期や性能について、現時点の目標を確定事項として扱うべきではありません。
9.日本の半導体産業は復活できるのか
日本の半導体政策で注目されるのが、RapidusとTSMCの熊本工場です。
Rapidusの2nm半導体
Rapidusは、北海道千歳市の工場「IIM-1」で、2nm世代の先端ロジック半導体の国内生産を目指しています。
2025年4月にパイロットラインを稼働し、同年7月には2nm世代のGAAトランジスタについて、電気的な動作特性を確認したと公表しました。
量産開始の目標は2027年です。Rapidus「2nm GAAトランジスタの試作」
ただし、試作成功と量産成功は同じではありません。
量産では、次の点が重要になります。
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良品を安定して作れる割合である「歩留まり」
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顧客が求める性能
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製造コスト
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納期
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品質と信頼性
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実際の顧客契約
そのため、2027年の量産開始は目標であり、今後の進捗確認が必要です。
「2nm」は実際の長さなのか
2nmという名称は、半導体の技術世代を示す呼び方です。
すべての部分が正確に2ナノメートルで作られているという意味ではありません。
世代が進むと、一般的には次の改善が期待されます。
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同じ面積に多くのトランジスタを置ける
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処理性能を高められる
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消費電力を減らせる
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より複雑な機能を搭載できる
Rapidusは、電流が流れる部分をゲートで囲む「GAA」という構造を採用します。
TSMCの熊本工場
TSMCは、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、トヨタとともに、熊本のJASMへ追加投資し、第2工場を建設する計画を発表しています。
TSMCの公式発表では、2工場合計の投資額は200億ドルを超え、2027年末までの第2工場稼働が予定されています。ただし、生産能力や計画は需要に応じて調整される可能性があります。TSMC「JASM熊本第2工場」
RapidusとJASMは、同じ役割ではありません。
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Rapidus:最先端ロジック半導体への挑戦
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JASM:自動車、産業機器、民生機器などを支える国内供給基盤
両方がそろうことで、日本国内の半導体供給網を広げる狙いがあります。
10.半導体が経済安全保障の問題になる理由
半導体は、スマートフォンだけでなく、次の分野に使われます。
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自動車
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電力
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通信
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金融
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医療
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防衛
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宇宙
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AI
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工場設備
半導体が供給されなければ、多くの製品やサービスが止まります。
実際に、世界的な半導体不足では、自動車や電子機器の生産に影響が出ました。
一部の国や企業への集中
先端半導体の供給網には、強い集中があります。
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先端ロジック製造
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EUV露光装置
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EDA設計ソフト
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HBM
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一部の材料や製造装置
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先端パッケージング
特定の企業や地域で問題が起きると、世界中の企業が影響を受けます。
輸出管理の影響
AI半導体や製造装置は、軍事・安全保障にも関係します。
そのため、米国を中心に中国向けの輸出管理が行われています。
日本企業も、米国の技術や部品を使った製品を輸出する場合、米国の規制が関係することがあります。
企業は取引先の国だけでなく、次の点も確認しなければなりません。
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製品がどこで使われるか
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最終利用者は誰か
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米国由来の技術が含まれるか
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日本の外為法の対象になるか
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規制対象企業との資本関係がないか
半導体の取引は、価格や品質だけでは決められない時代になっています。
11.電力と通信を一緒に考える「ワット・ビット連携」
AIデータセンターは、大量の電力を必要とします。
計算用サーバーだけでなく、機器を冷却するためにも電力を使います。
そこで日本政府が進めているのが「ワット・ビット連携」です。
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ワット:電力
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ビット:データ・通信
を表します。
なぜ連携が必要なのか
データセンターを建てたい場所に、十分な電力があるとは限りません。
電力が不足している地域にデータセンターを建てると、発電所や送電線の整備に長い時間がかかる場合があります。
一方、電力が豊富な地域にデータセンターを置き、高速な光通信で都市部と接続する方法もあります。
つまり、
電気を遠くへ運ぶだけでなく、電力のある場所で計算し、計算結果を通信で運ぶ
という考え方です。
経済産業省と総務省は、電力、通信、データセンターの事業者が連携し、効率的な設備整備を進める方針をまとめています。経済産業省・総務省「ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0」
AI時代には、半導体政策だけでなく、エネルギー政策や地域政策も重要になります。
12.企業や個人の生活にどのような影響があるのか
半導体や通信は専門的な産業に見えますが、私たちの生活にも影響します。
製品価格
メモリや半導体が不足すると、スマートフォン、パソコン、自動車、サーバーなどの価格に影響します。
AIサービスの料金
AIサービスには、半導体、データセンター、通信、電力の費用がかかります。
計算コストが下がれば利用料金が下がる可能性がありますが、電力や半導体が不足すれば料金上昇の要因になります。
地方へのデータセンター立地
電力と通信の条件が整えば、地方にデータセンターや半導体関連拠点が増える可能性があります。
雇用や関連産業が生まれる一方、大量の電力・水の使用、環境負荷、災害対策なども課題になります。
通信サービス
光通信や6Gが進展すると、遠隔医療、自動運転、ロボット、工場の遠隔操作、災害対応などで新しいサービスが生まれる可能性があります。
13.企業は何を確認すればよいのか
半導体を利用する企業
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重要な半導体をどの国・企業から調達しているか
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代替製品があるか
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在庫を何か月分持つべきか
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製品の生産終了時期を把握しているか
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輸出管理の対象にならないか
半導体関連企業
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AI半導体だけでなく、HBMや後工程に参入余地がないか
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放熱、基板、材料、検査などで強みを生かせないか
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RapidusやJASMの国内供給網へ参加できないか
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人材と研究開発設備を確保できるか
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米中規制の影響を受ける取引がないか
通信関連企業
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AIデータセンター向け通信の需要を取り込めるか
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光電融合やデータセンター間接続に参入できるか
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6Gの研究だけでなく、国際標準化に参加できているか
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AIによるネットワーク運用を導入できるか
データセンターを利用する企業
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電力価格や供給制約の影響を受けないか
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特定地域や特定クラウドへの依存が高くないか
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災害時の代替拠点があるか
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データの保管場所が法令や契約に適合しているか
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AI処理をクラウドと端末側でどう分担するか
14.まとめ――競争の主役はチップ単体からシステム全体へ
AI時代の半導体・通信について、重要なポイントをまとめます。
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半導体は電子機器の頭脳や記憶を担当する
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AIによって、計算用チップと高速メモリの需要が増えている
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HBMと先端パッケージングがAI性能を左右する
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一枚の巨大チップから、複数のチップレットを組み合わせる方向へ進んでいる
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通信速度と消費電力がAIデータセンターの重要課題になっている
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光電融合は、電気配線の消費電力と通信量の問題を解決する可能性がある
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6Gでは、通信とAI、衛星、センシングの融合が検討されている
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日本はRapidus、JASM、装置・材料、光通信を組み合わせた再構築を進めている
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半導体は経済安全保障や輸出管理と切り離せない
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データセンターでは、半導体・通信・電力を一緒に考える必要がある
半導体競争は、「最も細かい回路を作った企業が勝つ」という単純なものではなくなっています。
設計、製造、メモリ、実装、通信、電力、ソフトウェアを、どれだけ効率よく組み合わせられるか
が勝負を決めます。
日本には、半導体材料、製造装置、精密部品、パワー半導体、光通信などの強みがあります。
これらの強みを個別に守るだけでなく、一つのシステムとして結び付けられるかどうかが、AI時代の産業競争力を左右するでしょう。
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