AIの電力問題を「光」で解く――光電融合・シリコンフォトニクス・CPO

はじめに

生成AIの進化により、データセンターでは大量のGPUが使われるようになりました。

ところが、GPUの計算性能を高めるだけでは、AIシステム全体を速くすることはできません。

GPUとGPU、GPUとメモリ、サーバーとサーバーの間で、大量のデータを高速に運ぶ必要があるからです。

現在、このデータの多くは電気信号で運ばれています。しかし、通信速度を高め、距離を延ばすほど、電気配線の消費電力と発熱が増えていきます。

そこで注目されているのが「光電融合」です。

簡単にいえば、

計算や制御は電気、データの移動は光に任せる

という考え方です。

この記事では、光電融合デバイス、シリコンフォトニクス、CPO、光I/Oチップレット、NTTのIOWNについて解説します。


目次

  1. 光電融合とは何か

  2. なぜ電気配線だけでは限界が来るのか

  3. 電気と光は何が違うのか

  4. 光電融合デバイスを構成する部品

  5. シリコンフォトニクスとは何か

  6. CPOとは何か

  7. 光トランシーバーとCPOの違い

  8. 光I/Oチップレットとは何か

  9. なぜAIデータセンターに必要なのか

  10. NTTのIOWNと光電融合

  11. Broadcom・NVIDIA・Intelの取り組み

  12. 光電融合の実用化を阻む課題

  13. 日本にどのような勝機があるのか

  14. 標準化が重要になる理由

  15. 光電融合デバイスのロードマップ

  16. ニュースを読むときの注意点

  17. まとめ


光電融合とは何か

「光電融合」とは、光を使う技術と、電気を使う半導体技術を一つのシステムとして組み合わせることです。

電気回路は、計算、記憶、制御が得意です。

一方、光は、大量の情報を高速かつ長距離に運ぶことが得意です。

そのため、それぞれの得意分野を分担させます。

技術得意なこと電気・電子回路計算、記憶、論理処理、細かな制御光回路大容量通信、長距離伝送、複数波長による並列通信光電融合電気で計算し、光で大量のデータを運ぶ

電車にたとえるなら、電気回路が駅や司令室、光回路が高速鉄道です。

駅では乗客を整理し、行き先を決めます。しかし、都市間を大量の乗客が移動するときは、高速鉄道が適しています。

光電融合では、この「高速鉄道」を半導体のすぐ近くまで持ってこようとしています。


なぜ電気配線だけでは限界が来るのか

電気配線にも、もちろん長所があります。

  • 回路を小さく作りやすい

  • 電気信号の処理方法が確立している

  • 半導体製造技術との相性がよい

  • 比較的安価に実装できる

しかし、データ量と通信速度が増えると、いくつかの問題が目立つようになります。

信号が弱くなる

高速な電気信号は、配線を進む間に弱くなったり、波形が崩れたりします。

距離が長くなるほど、信号を修復するための回路が必要です。

消費電力が増える

データを高速に送るためには、電気信号を強くしたり、波形を整えたりする必要があります。

そのための回路も電力を消費します。

発熱が増える

消費された電力の多くは熱になります。

データセンターでは、チップの冷却だけでなく、通信回路の発熱も問題になります。

配線を増やしにくい

GPUやスイッチチップの通信速度が上がると、多くの信号線が必要になります。

しかし、チップや基板の周囲に配置できる配線の数には限界があります。

つまり、AIシステムでは「計算できないこと」だけでなく、「計算に必要なデータを運べないこと」が性能の壁になりつつあるのです。


電気と光は何が違うのか

光通信には、次のような特徴があります。

高速で大量のデータを運べる

光ファイバーでは、異なる波長の光を同時に使えます。

これは、一つの道路に複数の専用レーンを設け、同時に多くの荷物を運ぶようなものです。

距離が延びても信号が弱くなりにくい

光ファイバーは、電気配線より長い距離を低損失で伝送できます。

電磁的な干渉を受けにくい

電気配線では、隣接する配線の信号が互いに影響することがあります。光ファイバーでは、こうした影響を受けにくくなります。

通信電力を抑えられる可能性がある

特に高速・大容量・長距離の通信では、光を使うことでデータ1ビット当たりの電力を抑えられる可能性があります。

ただし、光がすべての面で優れているわけではありません。

  • 光を発生させるレーザーが必要

  • 電気と光を変換する回路が必要

  • 光ファイバーを正確に接続する必要がある

  • 光部品の温度を安定させる必要がある

  • 光学部品の検査が難しい

  • パッケージング費用が高くなりやすい

光電融合とは、電気をすべて光に置き換える技術ではありません。

電気と光の「境界をどこに置くか」を最適化する技術なのです。


光電融合デバイスを構成する部品

光電融合デバイスは、複数の部品から構成されます。

レーザー

通信に使う光を発生させます。

レーザーをチップ上に搭載する方法と、外部に置く方法があります。

チップ上に搭載すれば小型化しやすい一方、熱や信頼性が課題になります。外部に置けば交換しやすくなりますが、接続が複雑になります。

光変調器

電気信号を、光の変化に変換します。

光をオン・オフしたり、光の強さや位相を変えたりして情報を載せます。

光導波路

チップ上で光が進むための通路です。

電気回路における金属配線の、光版と考えると分かりやすいでしょう。

受光素子

光信号を受け取り、電気信号へ戻します。フォトダイオードなどが使われます。

電子回路

光変調器や受光素子を制御し、電気信号を処理します。

光ファイバー接続部

光チップと光ファイバーを接続します。

数マイクロメートル単位のずれでも、光が正しく入らないことがあります。量産時の位置合わせが大きな課題です。

光電融合では、これらの部品を小さなパッケージの中に収め、低コストで大量生産する必要があります。


シリコンフォトニクスとは何か

シリコンフォトニクスは、半導体製造で使われるシリコン技術を利用して、光回路を作る技術です。

従来、光学部品は個別に製造・調整することが多く、小型化や大量生産が難しいという問題がありました。

シリコンフォトニクスでは、光導波路、変調器、受光素子などを半導体チップ上に集積します。

主な利点は次のとおりです。

  • 光回路を小型化できる

  • 複数の光機能を一つのチップに集積できる

  • 半導体製造技術を活用できる

  • 大量生産によるコスト低減を期待できる

  • 電子回路の近くに光回路を配置できる

Intelは、シリコンフォトニクスを「シリコン集積回路と半導体レーザーを組み合わせる技術」と説明しています。Intel「Silicon Photonics」

ただし、シリコンは光を作ることが得意な材料ではありません。

そのため、レーザーにはシリコン以外の材料を使ったり、外部レーザーを接続したりする方法が採用されます。

シリコンだけで完結するのではなく、複数の材料と製造技術を組み合わせることが重要です。


CPOとは何か

CPOは「Co-Packaged Optics」の略です。

日本語では「共封止光学」などと呼ばれます。

従来、ネットワークスイッチでは、光トランシーバーを装置の前面に差し込みます。

スイッチチップから光トランシーバーまでは、基板上の電気配線で接続されます。

通信速度が上がると、この電気配線部分の消費電力と信号損失が大きくなります。

そこで、光エンジンをスイッチチップのすぐ近くに置くのがCPOです。

従来方式

スイッチチップ
→長い電気配線
→装置前面の光トランシーバー
→光ファイバー

CPO

スイッチチップ
→短い電気配線
→同じパッケージ付近の光エンジン
→光ファイバー

電気信号が進む距離を短くすることで、信号補償に必要な電力を減らします。

Broadcomは、光エンジンを統合した102.4TbpsのCPO対応スイッチ「Tomahawk 6―Davisson」を発表しています。同社は、従来のプラガブル方式と比べ、光インターコネクト部分の消費電力を70%削減できると説明しています。ただし、これはBroadcomによる製品比較値です。Broadcom「Tomahawk 6―Davisson」


光トランシーバーとCPOの違い

CPOが優れているなら、すべての光トランシーバーをすぐに置き換えればよいように思えます。

しかし、従来のプラガブル型にも大きな利点があります。

CPOでは、光エンジンに不具合が起きたとき、どの単位で交換するのかが課題です。

また、発熱の大きなスイッチチップの近くに、温度変化に敏感な光学部品を置かなければなりません。

そのため当面は、プラガブル型、LPO、CPOなど、複数の方式が用途に応じて使い分けられると考えられます。


光I/Oチップレットとは何か

CPOをさらに計算チップへ近づける考え方が「光I/Oチップレット」です。

チップレットとは、大きな半導体を機能別に分割した小さなチップです。

光I/Oチップレットは、光通信機能を担当するチップレットです。

CPU、GPU、AIアクセラレーターの近くに置き、計算チップから外部へ直接、大量のデータを光で送ります。

Intelが公開している光コンピュートインターコネクトの第1世代チップレットは、双方向4Tbpsをサポートし、将来的には1デバイス当たり数十Tbpsを目指すとしています。Intel「Silicon Photonics」

光I/Oチップレットが普及すれば、光の適用範囲は次のように広がります。

データセンター間

サーバー間

基板間

パッケージ間

チップ間

将来的にはチップ内部

ただし、光をチップへ近づけるほど、発熱、面積、接続精度、製造歩留まりの問題が難しくなります。


なぜAIデータセンターに必要なのか

AIモデルの学習では、数千から数万規模のGPUを接続する場合があります。

各GPUが独立して計算するだけではありません。計算途中のデータを何度も交換します。

このとき、ネットワークが遅いと、GPUはデータを待つことになります。

高価なGPUを大量に導入しても、通信待ちで停止する時間が増えれば、投資を十分に活用できません。

AIデータセンターに光電融合が求められる理由は、主に次の4つです。

通信帯域を増やす

GPU間でより多くのデータを送れるようにします。

消費電力を抑える

データ転送に必要な電力を減らし、計算に使える電力を増やします。

通信距離を延ばす

離れたラックやデータセンター間でも、高速な接続を維持しやすくなります。

システムを大規模化する

より多くのGPUを一つのAIシステムとして接続できるようにします。

NVIDIAは2025年、Spectrum-X PhotonicsとQuantum-X Photonicsを発表し、CPOを利用して大規模なAIファクトリーを接続する方針を示しました。同社は従来方式との比較で、3.5倍の電力効率などを掲げています。NVIDIA「Spectrum-X Photonics」

2026年には、NVIDIAはSpectrum-X Ethernet Photonicsについて量産段階に入ったと発表しています。NVIDIA「Vera Rubin Full Production」


NTTのIOWNと光電融合

NTTは「IOWN」という次世代情報通信基盤構想を進めています。

IOWNでは、ネットワークからコンピューター内部へ、光技術の利用範囲を段階的に広げようとしています。

主要な構成要素は次の3つです。

APN

APNは「All-Photonics Network」の略です。

ネットワークから端末まで、光技術を幅広く利用し、大容量・低遅延・低消費電力な通信を目指します。

PEC

PECは「Photonics-Electronics Convergence」の略で、光電融合技術を指します。

従来は電気が担っていたコンピューター内部の接続を、段階的に光へ置き換えます。

AI Computing Platform

ハードウェアとソフトウェアを統合的に最適化し、AI処理に必要な計算資源を効率よく利用する構想です。

NTTは、光電融合の考え方について「電気システムは高速化や長距離化に伴って電力が増えやすいのに対し、光は電力増加を抑えやすい」と説明しています。NTT「IOWN―PEC」

NTTの光電融合ロードマップ

NTTはPEC-2を使ったスイッチについて、2026年度中の商用提供開始を予定しています。生産自動化や複数ラインへの拡張も計画しています。NTT「2026年IR資料」

ただし、PEC-3以降の時期は企業ロードマップであり、確定した量産時期ではありません。


Broadcom・NVIDIA・Intelの取り組み

Broadcom

Broadcomは、ネットワークスイッチ用半導体とCPOを組み合わせています。

Tomahawk 6―Davissonでは、102.4Tbpsのスイッチ能力と、チャネル当たり200Gbpsの光接続を掲げています。

2025年10月の発表時点では、早期顧客・パートナー向けのサンプル提供段階でした。「製品発表」と「広範な量産採用」は分けて理解する必要があります。

NVIDIA

NVIDIAは、GPUだけでなく、AIシステム全体のネットワークを提供しようとしています。

Spectrum-X PhotonicsやQuantum-X Photonicsによって、多数のGPUを接続する光ネットワークを構築します。

NVIDIAの特徴は、GPU、スイッチ、ネットワークソフトウェア、CPOを一体化できることです。

Intel

Intelは、シリコンフォトニクスを長年開発し、光トランシーバーや光I/Oチップレットへ展開しています。

Intelによると、同社のシリコンフォトニクス技術では、これまでに800万個を超えるフォトニック集積回路を出荷しています。Intel「Silicon Photonics」

今後は、CPU、GPU、IPUなどと光I/Oチップレットを共封止することを想定しています。


光電融合の実用化を阻む課題

光電融合は有望ですが、電気配線を簡単に置き換えられるわけではありません。

レーザーの寿命と交換

レーザーが故障した場合、装置のどの部分を交換するのかを決める必要があります。

そのため、レーザーを外部に置き、交換しやすくする方式も検討されています。

GPUやスイッチチップは大量の熱を発生します。

光変調器やレーザーは温度変化の影響を受けるため、冷却と温度制御が重要です。

光ファイバーの接続

光チップとファイバーを非常に高い精度で接続しなければなりません。

研究室で1個を接続することと、工場で何万個も安定して接続することは別の課題です。

検査

電子回路だけでなく、光の出力、波長、損失、接続状態も検査する必要があります。

パッケージを完成させた後で不良が見つかると、GPUやスイッチチップも含めて損失になる可能性があります。

歩留まり

電子チップ、光チップ、レーザー、パッケージ基板を一体化すると、どれか一つの不良が全体に影響します。

コスト

光電融合が技術的に優れていても、従来方式より大幅に高ければ普及しません。

装置価格だけでなく、電力、冷却、保守、交換、停止時間を含めた総コストで評価する必要があります。


日本にどのような勝機があるのか

日本は、GPUやスイッチASICの市場では米国企業に後れを取っています。

一方、光電融合に必要な周辺技術には強みがあります。

  • 光ファイバー

  • 光コネクター

  • 光学材料

  • セラミック部品

  • 高機能パッケージ基板

  • 精密接合

  • 半導体製造装置

  • 検査・計測装置

  • 通信キャリアの技術

  • シリコンフォトニクス研究

NTTのIOWNだけでなく、産総研も2025年4月に光電融合研究センターを発足させました。

同センターでは、シリコンフォトニクス、光電融合パッケージ、光スイッチネットワークなどを研究対象としています。産総研「光電融合研究センター」

NEDOも、光チップレット実装、光電融合インターフェースメモリ、確定遅延コンピューティングなどの研究開発を進めています。NEDO「光電融合に係る実装技術」

日本にとって重要なのは、「日本だけで独自規格を完成させること」ではありません。

世界のGPU、スイッチ、ファウンドリ、クラウド事業者と接続できる技術を持ち、光部品、材料、パッケージング、検査などで欠かせない存在になることです。


標準化が重要になる理由

光電融合デバイスでは、多くの企業の部品を組み合わせます。

  • スイッチチップ

  • 光エンジン

  • レーザー

  • 光ファイバー

  • コネクター

  • パッケージ基板

  • 制御ソフトウェア

  • 冷却システム

接続方法が企業ごとに異なると、部品を自由に組み合わせられません。

特定企業の製品だけに依存する「ベンダーロックイン」が起きる可能性もあります。

OIFは2023年、3.2TbpsのCPOモジュールについて、電気的・光学的・機械的な接続を定める実装合意を発表しました。OIF「3.2T Co-Packaged Module」

標準化によって期待される効果は次のとおりです。

  • 異なる企業の部品を接続できる

  • 調達先を増やせる

  • 部品価格を下げやすくなる

  • 検査方法を共通化できる

  • 製品開発を速められる

  • 供給停止時の代替品を確保しやすい

光電融合の競争では、最高性能の部品を作るだけでなく、標準を作る側に入れるかも重要です。


光電融合デバイスのロードマップ

大きな流れは次のようになります。

データセンター間を光で接続

サーバー間を光で接続

基板間を光で接続

パッケージ間を光で接続

チップ間を光で接続

将来的にはチップ内部でも光を利用

光は、外部ネットワークからコンピューターの中心へ、少しずつ近づいています。


ニュースを読むときの注意点

製品発表と量産出荷を分ける

次の段階は、それぞれ意味が異なります。

  1. 研究成果

  2. 試作

  3. 動作確認

  4. サンプル提供

  5. 顧客評価

  6. 限定導入

  7. 量産出荷

  8. 大規模な商用採用

「世界初のCPO製品」と発表されても、大規模なデータセンターで広く使われているとは限りません。

企業発表の比較条件を確認する

「消費電力70%削減」「3.5倍の電力効率」などの数字は、比較対象によって変わります。

  • どの従来製品と比較したのか

  • 光エンジンだけか、装置全体か

  • 冷却電力を含むか

  • 実測値か、設計上の値か

  • どの通信距離で測定したか

こうした条件を確認する必要があります。

通信速度の単位に注意する

Tbpsには、装置全体の合計帯域、1ポート当たり、1チャネル当たりなど、さまざまな意味があります。

「102.4Tbps」と「1.6Tbps」を、数字だけで比較してはいけません。

ロードマップを確定事項にしない

2028年や2032年という時期は、研究開発や企業の目標です。

技術課題、顧客需要、標準化、製造コストによって延期される可能性があります。


まとめ

光電融合は、電気を光に完全に置き換える技術ではありません。

電気が得意な計算・記憶・制御と、光が得意な高速・大容量通信を組み合わせる技術です。

その中心には、次の技術があります。

  • シリコンフォトニクス

  • 光変調器

  • 受光素子

  • 光導波路

  • 半導体レーザー

  • CPO

  • 光I/Oチップレット

  • 光電融合パッケージング

  • 光ファイバー接続

  • 検査・標準化技術

AIデータセンターでは、計算性能だけでなく、GPU間でデータを運ぶ能力が重要になっています。

光電融合は、通信帯域を増やし、電力と発熱を抑えながら、より多くのGPUを接続するための有力な技術です。

ただし、普及を決めるのは最高通信速度だけではありません。

  • 安定して量産できるか

  • 光部品を交換できるか

  • 発熱を管理できるか

  • 異なる企業の部品を接続できるか

  • 従来方式より総コストを下げられるか

こうした条件を満たす必要があります。

光電融合の本質は、単に「通信を光に変えること」ではありません。

コンピューターの内部構造を、電気中心から電気と光の協調型へ作り替えること

なのです。


主な出典

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