コンクリートが、CO2を「出す側」から「ためる側」に回れるかもしれません。

2026年7月23日、NEDO、住友大阪セメント、大成建設は、人工石灰石を用いたCO2固定コンクリート製品の現場実証を完了したと発表しました。

ポイントは、実験室の中だけの話ではないことです。

このコンクリート製品は、国土交通省の直轄工事で実際に使われ、約3年間モニタリングされました。その結果、ひび割れや表面剥離はなく、強度低下や鉄筋腐食も確認されなかったとされています。

つまり、「CO2を固定できる」だけでなく、「実際の構造物として使える可能性がある」ことを現場で確かめた、というニュースです。

CO2固定コンクリートとは何か

今回の発表で出てくる「CO2固定コンクリート」は、製造過程でCO2を材料の中に取り込み、人工石灰石などの形で固定したコンクリートです。

少し言い換えると、CO2をただ排出するのではなく、資源として材料の中に閉じ込める技術です。

通常、セメントやコンクリートの製造は多くのCO2を排出します。セメントは石灰石を高温で焼成して作られますが、その過程でエネルギー由来のCO2だけでなく、原料の化学反応によるCO2も発生します。

だからセメント・コンクリート分野は、脱炭素が難しい産業の一つとされています。

一方で、コンクリートは社会に欠かせません。

道路、橋、トンネル、ダム、港湾、建物、上下水道。私たちの生活の土台には、ほとんど必ずコンクリートがあります。

使う量が非常に多いからこそ、1立方メートルあたりのCO2を少し減らすだけでも、社会全体では大きな意味を持ちます。

今回、何が実証されたのか

今回の実証では、人工石灰石を用いたCO2固定コンクリート製品が、国土交通省の直轄工事2カ所に使われました。

一つは、秋田県の成瀬ダム原石山採取工事です。ここでは、落蓋式U形側溝に使われました。

もう一つは、福井県の荒島第二トンネル工事です。ここでは、縦壁付矩形水路に使われました。

NEDOの発表によると、2022年10月にこれらの現場へ適用し、寒冷地とトンネル坑内という異なる環境条件で約3年間モニタリングしました。

その結果、次の点が確認されています。

  • コンクリート1立方メートルあたり最大約110kgのCO2を固定

  • 従来の製造設備・製造サイクルで製造可能

  • 通常製品と同様の検査基準を満たして出荷可能

  • 約3年間の現地モニタリングで、ひび割れや表面剥離なし

  • 強度低下や鉄筋腐食も確認されず

ここで重要なのは、「環境性能」と「構造性能」の両立です。

CO2を固定できても、強度が落ちたり、鉄筋が腐食しやすくなったりすれば、インフラには使いにくい。逆に、構造性能が十分でも、CO2削減効果が小さければ脱炭素技術としての意味は限定的です。

今回の実証は、その両方を現場で確認した点に価値があります。

なぜ鉄筋腐食が重要なのか

コンクリートの中にある鉄筋は、通常、強アルカリ性の環境によって守られています。

しかし、コンクリートが大気中のCO2などを吸収して中性化すると、鉄筋を守る性質が弱まり、腐食しやすくなります。

CO2を固定するコンクリートと聞くと、「CO2を入れて大丈夫なのか」「鉄筋が錆びやすくならないのか」と感じる人もいるはずです。

だからこそ、今回の実証で寒冷地やトンネル坑内という条件を選び、実構造物としてモニタリングした意味があります。

特にトンネル坑内は、自動車排ガス由来のCO2による中性化の進行が懸念される環境です。そうした場所で耐久性を確認したことは、今後の適用範囲を考えるうえで重要です。

ただし、冷静に線を引いておく必要があります。

今回の発表は、現場実証の完了です。

「すでに全国で使える製品として量産が始まった」
「どの工事でもすぐ採用できる」
「従来コンクリートをすべて置き換えられる」

という話ではありません。

実際に使われた現場は、現時点では国土交通省直轄工事の2カ所です。

また、1立方メートルあたり最大約110kgというCO2固定量も、配合、部材形状、製造条件、評価方法によって変わる可能性があります。

技術として有望であることと、社会に広く普及することの間には、まだ距離があります。

普及に向けた課題

CO2固定コンクリートが広がるには、いくつかの課題があります。

まず、コストです。
通常のコンクリートより高すぎれば、公共工事や民間工事で広く使うのは難しくなります。

次に、供給量です。
人工石灰石を安定的にどれだけ作れるのか。CO2をどこから回収するのか。カルシウム源となる材料をどれだけ確保できるのか。こうしたサプライチェーン全体の設計が必要になります。

さらに、標準化や基準づくりも重要です。
建設材料は、性能が良さそうだからすぐ使える、というものではありません。設計基準、施工指針、品質管理、検査方法が整って初めて、現場で安心して使えます。

NEDOの発表では、設計法や技術指針類の策定、標準化にも取り組んでいることが示されています。また、2026年3月に改正されたセメントの日本産業規格、JIS R 5210、R 5211、R 5212、R 5213には、人工石灰石など石灰石と同等の品質を持つものの使用を可能にする内容が反映されたとされています。

これは、普及に向けた土台づくりとして重要です。

このニュースが面白い理由

この話が面白いのは、脱炭素、資源循環、インフラ、材料開発が一つにつながっているからです。

CO2を回収する。
カルシウムを含む廃棄物などを活用する。
人工石灰石として固定する。
それをコンクリート材料として使う。
公共工事で実際に施工する。
数年間モニタリングして耐久性を確認する。

これは、単なる新素材の話ではありません。

CO2を「捨てるもの」ではなく「使うもの」として扱い、さらに社会インフラの中に長期固定するという発想です。

もしこの技術が広がれば、コンクリートは「排出を減らす素材」から「CO2を固定する素材」へ役割を変えていく可能性があります。

もちろん、これだけでセメント・コンクリート分野の脱炭素がすべて解決するわけではありません。

省エネルギー化、代替燃料、混合セメント、CO2回収、材料使用量の最適化、長寿命化など、複数の対策を組み合わせる必要があります。

それでも、CO2を材料の中に固定し、実際の構造物で3年間確認したという一歩は、かなり大きいと思います。

環境・エネルギー関連でほかの動き

2026年7月24日、NEDOは「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業」の2026年度第1回公募について、提案7件のうち6件を実施予定先として決定したと発表しました。

対象は、大規模水素サプライチェーン、水素ステーションの低コスト化・高度化、共通基盤整備などです。事業期間は最大2年間、2026年度から2027年度までとされています。

別紙2を見ると、水素品質の国際標準化、アンモニアタンク材料、水素燃料電池鉄道車両、液化水素充填、極低温水素環境下での金属材料評価など、かなり実装寄りのテーマが並んでいます。

また、2026年7月23日には「風車生産技術研究開発」の公募予告も出ています。公募開始は2026年8月下旬予定です。

こちらは、洋上風力の導入拡大やサプライチェーン強靱化を背景に、風車部品産業強靱化基盤開発、風車設計技術研究開発を進めるものです。

CO2固定コンクリート、水素、風力。

一見すると別々のニュースですが、共通しているのは「実装のための土台づくり」です。

技術そのものだけでなく、材料、基準、サプライチェーン、現場データ、標準化まで含めて動き始めています。

建材、コンクリート、土木、建築、資源循環、カーボンリサイクルに関わる人は、NEDOのCO2固定コンクリートの発表を一度確認しておくとよいと思います。

特に見るべきなのは、「どれだけCO2を固定できたか」だけではありません。

どの現場で使ったのか。
どのような環境条件で試したのか。
何年モニタリングしたのか。
強度や鉄筋腐食をどう確認したのか。
今後、標準化や指針類の整備がどう進むのか。

このあたりが、技術を社会実装するうえで重要になります。

水素に関わる人は、採択された6件のテーマを確認しておく価値があります。特に、鉄道、液化水素、材料評価、国際標準化に関わる企業や研究機関にとっては、周辺の動きを把握しておきたい内容です。

地味だけれど、土台が変わるニュース

今回のCO2固定コンクリートは、派手なニュースではありません。

新しいスマホやAIサービスのように、明日から誰もが使うものでもありません。

でも、社会の土台を作る素材が変わるかもしれないという意味では、とても重要です。

実験室でうまくいくこと。
工場で作れること。
現場で施工できること。
数年間、実構造物として耐えられること。
基準や指針に反映されること。
そして、公共工事や民間工事で広がっていくこと。

素材の社会実装は、このように一段ずつ進みます。

今回の発表は、「CO2を固めたコンクリートが、国の工事で約3年もった」という一歩です。

地味ですが、かなり現実に近い一歩です。

コンクリートは、これからも社会に必要です。
だからこそ、その作り方が変わる意味は大きい。

CO2を出すだけだった素材が、CO2をためる素材にもなっていく。

その可能性が、少しずつ見えてきました。


参考文献・情報源

※本記事は、2026年7月26日時点で確認できる公開情報をもとに作成しています。性能値、CO2固定量、耐久性評価、標準化、製品化、量産、商用化の時期は、測定条件、技術開発、制度、市場環境、各社の判断によって変わる可能性があります。

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