EVとAIを支える「磨く液体」 SiC特許273件から見えた中国の追い上げ

EVやAIデータセンターでは、大きな電力を効率よく制御する必要があります。その重要部品として注目されているのが、SiC(炭化ケイ素)を使ったパワー半導体です。

ところが、SiCは非常に硬く、加工が難しい材料です。

半導体の基板となるウエハは、表面を鏡のように平らにしなければなりません。その仕上げに使われるのが「CMPスラリー」です。細かな砥粒と薬品を混ぜた、いわば半導体専用の磨き粉です。

年間約100億円と推計される、小さな寡占市場

一部の市場調査では、SiC用研磨スラリーの世界市場は年間約100億円、上位3社が約85%を占めると推計されています。

名前が挙がるのは、米国のEntegris、フランスのSaint-Gobain、日本のフジミインコーポレーテッドです。

ただし、これらは市場調査会社による推計です。複数のレポートに同じ数字が掲載されていても、元の調査が共通している可能性があります。「85%」を厳密な確定値として扱うことはできません。

それでも、SiC用スラリーが限られた企業を中心に供給されている、専門性の高い市場であることは読み取れます。

なぜ簡単に参入できないのか

CMPスラリーは、単に硬い粒子を液体に混ぜれば完成するものではありません。

研磨速度を上げながら、ウエハ表面の傷を減らし、平らさを保つ必要があります。砥粒の大きさ、酸化剤、pH、分散性などを細かく調整しなければなりません。

配合だけでなく、製造条件や顧客ごとの調整にもノウハウが蓄積されます。そのため、市場規模は小さくても、簡単には置き換えにくい材料になります。

さらに、SiCウエハが6インチから8インチへ大型化すると、単純な面積は約1.8倍になります。広い面を均一に仕上げる必要があるため、研磨工程の難しさも増します。

市場シェアとは違う景色が、特許に表れた

今回、欧州特許庁のデータベースを使い、次の条件で検索しました。

研磨組成物の分類「C09G1/02」×「silicon carbide」

この条件で抽出された273のパテントファミリーをすべて取得し、出願人や公開国、引用関係を調べました。

ここでいう「273件」は、世界に存在するSiC研磨関連特許の総数ではありません。検索式によって定義した母集団の全件です。

集計すると、出願人の上位は日本のフジミが17件、Entegrisと旧Cabot Microelectronicsを合わせたグループが16件でした。

市場の有力企業と特許上位が、おおむね重なっています。

ところが、そのすぐ下には中国の大学や材料企業が続いていました。また、273件の代表公開のうち186件、約68%が中国公開でした。

「中国公開」は、必ずしも「中国企業による発明」を意味しません。しかし、SiC研磨技術に関する権利化活動が中国で活発になっていることは示しています。

市場シェアを見ると、現在の有力企業が分かります。一方、特許を見ると、将来の競争に備えている企業や地域が見えてきます。

この小さな市場では、現在と未来で、違う景色が広がっていました。

小さな材料に、産業の縮図がある

SiC用スラリーは、半導体産業全体から見れば小さな市場です。

しかし、そこには次の論点が凝縮されています。

  • 長年のノウハウを持つ企業による寡占

  • SiC生産拡大に伴うサプライチェーンの変化

  • 中国企業・研究機関による特許活動の増加

  • 6インチから8インチへの技術世代交代

派手な完成品だけを見ていると、その競争力を支える材料や工程は見えません。

産業構造を理解するには、「何を作るか」だけでなく、「何で磨くか」まで見る必要があります。

273パテントファミリーの出願人ランキング

上位2社は、現在の市場でも名前が挙がる日米企業です。しかし、その下には中国勢が横並びで続いています。

現時点で突出した中国企業が1社あるというより、複数の企業や研究機関が同時に技術を蓄積している状態です。

出願の増加は中国公開に集中している

非中国の公開件数も年によって変動しているため、「増加分の100%が中国」とまでは言えません。

ただし、2022年以降に見られる大幅な増加が、中国公開を中心に起きていることは明らかです。中国公開は2022年の21件から、2024年には53件まで増えています。

一方、フジミなど既存上位企業の出願は、比較的一定のペースです。市場全体が同じ速度で活発化しているのではなく、中国側の権利化活動が目立って増えていると読むのが適切です。

引用関係から見える技術の土台

母集団の273件が引用する先行特許を調べると、Cabot Microelectronics、東芝、清華大学、中国科学院、SICCなどの特許が複数回参照されていました。

初期の技術的な土台には日米企業の特許があります。その上に、中国の大学、国立研究機関、SiC基板メーカーによる特許が重なっています。

これは、中国の動きが件数だけではない可能性を示します。研究機関、材料企業、基板メーカーが、それぞれの立場から技術を積み上げているためです。

ただし、今回の引用数は273件の母集団内で数えたものです。世界中の特許から受けた引用の総数ではありません。

Saint-Gobainが上位にいない理由

市場の主要企業とされるSaint-Gobainは、今回の出願人ランキング上位に現れませんでした。

同社にはSiC関連特許が多数ありますが、主な対象は結晶、セラミックス、砥粒などです。今回の「SiC×スラリー組成物」という条件に入ったものは4ファミリーでした。

特許が少ないのではなく、権利を押さえている技術領域が違うのです。

企業の競争力を特許件数で比較する場合、全体の件数だけでなく、「どの工程の権利を持っているか」を確認する必要があります。

今後確認したい3つの変化

今後の競争を判断するうえで、注目したいのは次の3点です。

  1. 中国勢による米国・国際出願の増加
    中国国内を中心とした出願から、米国出願や国際出願へ広がれば、海外市場への進出意欲を示す可能性があります。

  2. フジミやEntegrisの出願ペース
    既存企業の出願が増えれば、新規参入への対抗や技術転換が始まった可能性があります。

  3. 新しい半導体加工分類の増加
    CPCの新分類などを定点観測すれば、従来の検索では見えにくかった技術の広がりを捉えられる可能性があります。

この調査で分からないこと

特許からは、誰がどの技術領域で権利化を進めているかを読み取れます。しかし、売上、量産能力、顧客評価、特許の有効性までは分かりません。

また、特許は出願から公開まで時間がかかるため、直近の件数は少なく見えます。市場規模やシェアも市場調査会社による推計であり、確定値ではありません。

今回の調査から言えるのは、「中国企業がすぐに市場を奪う」ということではありません。

より正確には、

現在の市場は日米欧の有力企業が中心だが、将来に向けた中国での権利化活動はすでに増えている

ということです。

現在のシェアだけを見ていると、次の競争は見えません。特許だけを見ていても、現在の事業力は分かりません。

複数のデータを重ねることで、初めて産業の現在地と変化の兆しが見えてきます。

※本記事は公開情報にもとづく調査であり、投資判断や特許権に関する助言ではありません。特許データは2026年7月29日時点。市場に関する数値には民間調査会社の推計が含まれます。

本記事はAIを制作補助に使用し、その調査内容にもとづき記事を作成して公開しています。

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